桜の森の満開の下
昨夜、色々情緒不安定で、「あ春なんだな」と思い知っておるところだったりします。
そして、昨夜温かいコメントを頂き、休日一日つかっての熟考の結果、休止にさせて頂きます。エイプリルなフールと心配して下すった方もいらしゃったようですが私に年中行事は通用しないのです。長くサイトを開いているけどそんなことをやったのは後にも先にも3/14だけだから。
休止なのは今模索している榎関と青関を書きあがったとき寂しいだろうから。オリジナルとかって結構書いて放置したりするけど、二次は矢張り読んで貰いたいので。
だから榎関が書けたら復帰と言うことになるでしょう。
あとは人様に差し上げたものをどうこう云うのは差し上げた先に失礼なので、余り書かないようにしていたけど、魚の呟きとグノシエンヌは出来が悪すぎると思っている。でもあれ以上書けない。「これ読んで楽しいか?」と言うのが正直な所感です。本当に申し訳ないのですが。読んでいる人いたのだろうか…。
拍手がメンテナンス中だとかで、返信はまた後ほど。
春ですね。ビズさんの春(by_9thblues)を聴く季節です。本人達が暗黒時代とか昔言っていたみたいですが、私には堪らない。殊に、闇の雨と春と破れぬ夢をひきずって。姑獲鳥と鉄鼠に最適です。
春か。
春には桜と屍躰だ。男の人の眠るような屍躰。
…私これ京関と青関でかいている…。榎関でもかくべき?
以下は白コウモリのメモです。大量にほんの鳥渡違うバージョンとかが大量にフォルダには溢れているんですよ。
<ame/kyougoku/akber>
此のファテープルは、燦然と赤色に輝く都である。
鳳輦が壮麗門を潜るのを宰相はマスシドの連立する、ともすると木の柱のようにさえみえる角のある赤砂岩で出来た柱の架構の影にいた。態々出迎えるには及ばないと思ったのだ。鳳輦は何れにしろ此のマスシドまでやってくるのだ。
気怠い暑さに眺め遣っていると、鳳輦は途中で進路を変え、矩形の池を行く。
宮城中央の矩形をした池の水面は、緩々と流れる。池の中央には正方形をした壇があり、四方の辺から橋が架かる。橋を鳳輦は渡り、そして其処に着座した。四角い壇へ跫を踏み入れられる者は限られている。
其処は玉座であるからだ。
「あの放蕩が、」
中禅寺は柱の影で小さく小さく呟いた。
鳳輦を担ぐ人足を何だと思っているのか。
嘆息した。どれだけ口煩くいってもあの『殿下』は右から左に聞き流す。柳に風。暖簾に腕押し。馬の耳に念仏。馬耳東風。
然し其処を説得することこそ己の役割であり、此処までの高い官職を与えられたのだった。
些か迷惑気味に眉根を顰め、中禅寺は柱の影から苛烈な日の下へ身を曝した。
照り付ける陽光は灼き尽くすようで、己の影だけを残してその実体を消滅させてしまうのではないか、と思う程に激烈だった。
矢先に、激しい水音がした。
中禅寺の行く手、その目的地の最前で白い水柱が高く上がったのだった。
そして白い飛沫は四方へその表面に日の光を乱反射させながら飛び散ったのだった。
水柱が一瞬にして収束をみせると、腰に手を当てた長身の男が満足そうに微笑んで其処に立っていたのだった。
元々色素の薄い髪が白金に輝いていた。
「あんたは何やっているんだっ」
唐突に背後から声がして、殿下は大いに喜んだ。その躁的なはしゃぎぶりに中禅寺は眉間の皺を深くする。
「此の暑いのに…」
「お前に暑さの感覚があるとは思わなかったぞ」
左の口角が持ち上がった。
「で何を投げ入れたんです?」
「おお、浮いてこないな」
水面には水泡が幾つか浮かんでいる。だが投げ入れたその正体は姿を見せず、次第次第泡沫の数も少なくなって見えた。
「あんた…」
呆れた声を洩らす中禅寺は鳳輦に向き直り、その四方に控える精悍な男たちへ指図した。
然し彼らが動き出す以前に、殿下が動く。
「エノさっ…」
呼び止める前にその跫は水を潜っていた。
此の矩形をした池に浮かぶ壇は玉座である。四海と陸を表すのだ。故に海の深淵を表して池は見た目以上に深い。長身の殿下が肩まで水に浸るころ下る階段は終わる。其処からはただの深い淵である。
殿下は一息大きく吸い込むと、身を水の中へ沈めた。
水の中は青い。
青い中で日は白く宝石のような光輝だ。
ゆっくりと沈んで行くそれはすぐに見つかった。
藻掻くいている様子もなく、ただ身を水の欲するが儘に任せていた。
水の中でなければ舌打ちが出ただろう。
此処の主は水ではない。
彼が従うべきは──────
「上がってきませんね」
背後で声がし、中禅寺はゆっくりと振り返った。其処にいたのは幼顔の男だった。腰に細い剣を履き、水面を凝乎っと見詰める。
「青木くん」
総督の副官を勤める男だった。童顔で温順に見えるが戦場での激烈さは目を瞠るものがあると言っていたのは他ならぬ今水の中の『殿下』であった。
「参りましょうか?私が」
「否、大丈夫だろう。あれは柔な人間じゃあない」
仮にも殿下を「あれ」と呼ぶ中禅寺を青木は鮮々と凝視した。
「ほら、」
黒衣の中禅寺は水面を指差した。
「浮かんできた」
細かな泡沫が次第次第に大きくなって行く。そして、青く澄んでいた水面の向こうに黒い影が浮かび、やがて水が跳ね上がった。
「誰か、手を貸せ」
殿下の腕には人がいた。
小柄な、肉付きの良くない、腰周りに布を巻いただけの、男性だった。
「僕は肉体労働はしないんだ。──────青木くん」
中禅寺は青木を促した。一礼をして、青木は水へ近付いた。そして青木は水に近付き、殿下が水から救い上げてきた男を受け取った。
貧弱な体躯の男は大層軽かった。
水から這い上がった殿下は上着を脱いで絞る。水の滴る髪を掻き上げ、青木に言付ける。
「それ。たぶん水を飲んでいるから水抜きをしてジョドバァイへ」
怪訝な顔をしたのは中禅寺だった。
ジョドバァイは此の都に於ける、殿下の最も私的な場所であったからだ。
「中禅寺、今日は使者どのが来ているんだろ?さっさと仕事は終わらせよう」
「あんたがそれを言うか」
溜息交じりの声に殿下は快活に笑った。
<ame/kyougoku/akbar2>
赤砂岩で築かれ満たされた愛欲の都。
深い夜の淵に都はまるで人の体液の様な昏さを持つ。濃密な血溜りに似る。深い深い、真朱。
敷布の上に身を擲って、其の儘だった。
酷い疲労が躰を席巻していた。皮膚が滂沱の汗に濡れ気持ちが悪い。
先まで折ったり畳んだり馬乗りになっていた男は傍にはいない。
息を吐いた。
けれど、本当に呼吸をしたのか、果たして定かでない。
夜の稠密とした空気に、焦れる。
風は凪ぎ、暑溽に皮膚にじっとりと汗が浮かび、息苦しい。
何処までが躰温で何処までが外気なのか、俄かに眩う。
此の都は独特な臭いがする。
関口はジョドバァイの一室で身を捩った。
出る、と一瞬身を強張らせ、目を瞑った。躰が辛いのは、此処を動くな、と榎木津に厳命された所為もある。あの男は此の都で最大の権力者でありながら、金で贖われた此のしがない奴隷の一切を他人に触らせない。
身の内に散々注ぎ込まれた榎木津の精。
関口は敷布と身が触れ合った箇所が火傷をするのではないかと言うほどの暑さに耐え切れずまた身を捩る。
暑い。
独特な臭いがする。
初めて此処に来た時から感じていた。南国の泥泥に甘い果実が熟れて熟れて腐り掛けて最大に甘味を増したあの腐り落ちる直前のに発する酷い臭い。
甘泥くて、鼻腔から舌を刺激して唾液を過剰なほどに分泌させる、あの臭いだ。
暑い。
どうにも暑くて寝付かれない。況して臨界を越えた疲労が身の内にあるのだ。
「嗟…」
関口は呻いた。
呻いたところで誰も此処へはやってこないことは十分に理解していた。
榎木津は関口を此処に閉じ込めているのだ。
性具にする為に自分を買ったのか、と訝しむ。
そもそも
(…そもそも…なに?)
春に揺蕩うものを狂気と云わすして何と云おう。彼の花の下には狂人がいる。深く目を閉ざし、いつか来る次の狂気の為に。