close to you...?
久々SD、で再録。
タイムレコードは24/09/07となっています。(…書いたっけ)
前にもたしかこんな話を書いた気が…するんだが許してください。
夜の帳は落ちていた。
蛍光灯が炯炯と室内を照らし、空調の微かな振動音とバスケットシューズが床を擦る音が聞こえた。人の息切れと呼びかける短い声。聞き慣れたものだが、今となってはいつまでも保存しておきたいほど大切なものに成り果てている。
食事を終えれば合宿所はミーティング室に形態を変える。空調と大きなテレビが置いてあるからだった。大概は夕食メニューが書き出されているホワイトボードもある。
目の前で一学年上級の人たちがコートの形をした卓上ボードにマグネットを配置しながらぼそぼそと話しつつ、先日の試合録画を映す画面に見入っている。
短く整えられた爪。
先日握ったその手は温かかった。
夏だから鳥渡汗ばんでいたかもしれない。
何処までもびっちりと人間で、あの手が自分に降って来たらどれ程嬉しいか、きっと余人には判るまい。
あんな人だから兎角表情は変わらず冷めて見えるけど、
「ほんとはすげー熱いって判ってますから、」
深津の手にしていたFWのマグネットは他ならぬ沢北で、その手に沢北は自分の手を重ねた。
硬い。
相向かいに居た河田が顔を顰めた。
「何判らんねえこと言ってんだ、おめえ」
沢北は少し脣を引き結んで、凄む河田に耐えた。
重ねた手が動かなかったからだ。
筋張って骨も太くて、バスケットボールを悠々と掴める、硬い、男の手だ。
沢北が重ねても、外そうとはしなかった。
数をかぞえた。
硬くて、温かい手。
目の前で生きている、人の、手だ。
数はかぞえていたはずなのに、幾つまで数えたか判らなくなってしまった。
横を向いたままの深津の顔が、やがてゆっくりと此方に向き直った。
いつも沈着で、冷静なその様子は今も変わりない。その姿にどれだけコートの中で焦がれたか、知れない。
熱くなって、走って、投げて、打って――――――
歓喜した。
そんなに長い時間ではなかった。実際にはものの十数秒だっただろう。
深津は重なった手など一瞥もしなかった。
ただ真直ぐに此方を見て、凝乎っとその黒い眸で見て、
「沢北、」
と一声発した。
手を外した。
皆の見る画面の中では試合は前半だが24ポイントの差が着いている。
河田の目は既に、其方へ向かっていた。それを追うように画面に目線を向けた。ボールを持つ深津がいた。そのずっと前に走っている自分がいる。
「お前の方が熱いピョン」
耳朶を触るその声に沢北は顔を向けた。だが、此方など見ても居ない。ゆっくりとその脣の口角が上がって、「子供みたいに、」と云った。
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