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榎木津総一郎さんへの妄想。

総一郎さんは偽善に満ちた美しい笑顔の雄雛みたいな顔の紳士(と言う名の変態)だったら良いと思っています。
容姿に関しては、母方な感じで。でも長身で美しいのです。『榎木津』なだけに。
趣味は弟と関口の情事を眺めることです。横溝の本陣みたいに!柔和な顔で穴とかから眺めながら不能さんではないので自分のもいきりたってんの。
総一郎さんは挿入よりも丹念に関口を開発することにこそ情熱を注ぎそう。「ドライオルガスムスとはね、」と指を差し入れて「前立腺は腸のすぐ横に存在する。そうこのしこりだ」
「………っあっ…」
………。
「大丈夫女性の膣とはちがって括約筋はそう簡単には緩まない」と雄道具が。
「直腸に排泄物を溜め込まないように」と下剤が…。
とか無駄に丁寧で親切。
そしてその凡てが弟との情事に有効に為されることを望んでいる。
弟の精液で少しだけ膨らんだ関口の下腹部をそっと撫でるのが好き。
性感染症は肛門挿入というより、腸壁は傷付きやすいので、其処が切れ出血することによって感染するときいたことがあるので避妊具を使うかじっくりと丁寧に傷付かないようにしてあげることが大切、ね、総一郎さん。
弟と関口が幸せに結ばれることを望んでいる兄ってどうでしょうか?若草物語のローリーを何故かおもいだすけど。意味解らないでしょうが、放置してください。

…妄想で貶めてすみません。でもカメは関口のデフォだと信じてます。

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おおつごもり

冬コミ行ってました。

結局フレンチキス書けなくてすみません。
来年頑張ります。

色々ネタがあったにょ関ですが、色々忘れてしまったので、今覚えているのは榎木津家での歌留多大会の話です。正月らしく。
榎さんに云われて強制的に榎木津家の歌留多大会(着飾ったええとこのお嬢さんとかが多数参加)参加。しかも、百人一首歌留多の暗誦テストを中禅寺に付き合って貰っているのを見て、関くんを家の正月行事に参加させようと思い付いたりして。
振袖は勿論榎さんが用意して強制着せ替え。
元来運動に優れない関くんが歌留多で良い所を見せられる訳も無く、それ処か胸紐が肋骨に締まって、ブラックアウト。丁度その時榎さんは席を外していて、総一郎さんが関くんを運ぶ。
膝裏と背を支えて、だらりと長い袖が垂れ下がる。
女中もいない部屋で帯を緩めていると、榎さん登場~
「何やっているんだ、」
と冷ややかに、けれども怒気も露わに。着替えの時、着付けに煩く口を出そうと入り込もうとしたのに、襦袢姿を見られたくない関くんに殆ど泣かれながら追い出されたのだ。
榎さんにしてみれば遊里に馴染んでいるので襦袢姿の何処が恥ずかしいのかもわからない。裸でもあるまいし。
険悪な様子の榎兄弟…みたいなネタでした。
関くんは胸がぺったんこなので余り人に薄着を見せたくないのでした。

年の瀬押し迫っての拍手返信。
拍手をくだすったみなさまありがとうございました!
また来年。

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女体化!(興味の無い人は回避回避)

あわわ。書けてないです。
でも設定は出来てます。
結構普通な設定。誰がこんなの面白いって、私ですよ。

 

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shall we tango?

El Tango De Roxanne (ムーランルージュ)を榎関で。

娼夫な関口。色んな男に躰を開き、榎木津は関口を信じられない。
表情にも行動にも出さないけれど、嫉妬と言う嫉妬に身を焼かれる。関口も榎木津のことが好きなので、此の関係で泣くのはいつも関口。口下手なので感情が上手く表せない関口。
榎木津は娼夫に恋をするのが不毛だと云うことを充分理解しているのに、会いに行っては自分以外の人間の気配を感じて苦苦しい。
なんで愛し合う者同士の営みを贖ってしまうのか、と疑問を投げつける榎木津に関口はただ俯くだけ。
そして時間が来ると「もう行かなくちゃ」と去っていってしまう。
不器用で機転が利かなくて、学校さえ途中で通えなくなった関口に職の選択肢は殆ど無い。
同時に関口も知っている。
貴族に恋をしても不毛だと。

…あれ?ただの身分違いになってしまった。そして関口が泣き上戸に。
妄想していた当初娼夫は榎さんでした。だって関口より客が…多 そ う 。此の場合関口は苦学生で、嫉妬ばかりで勉強も手に付かないんだよ。
あ、関くんは受けですよ。たぶん、榎さんは気に入った人には入れさせてもいいけど、基本はひだりがわのひとかとおもう…

なんでこうタンゴとか好きなんだ…。某テニスブログさまが少し前まで、ピコの壁紙にshall we TANGO?とか書いていてえらいもえた。(アルヘンだからね!)

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皐月闇

 雨が降る前の薄らと暗くなった中、坂下から業業と燃え盛る焔を見ていた。
朱い焔と黒い煙の上には低く垂れ込めた雲が空を覆っていた。
梅雨特有の此の薄闇を皐月闇と言うらしい。
そして穹が霽れれば、夏が訪うことを感じていた。
 

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無題

父帰る

 汗が頸の後ろをつと伝った。
項を髪が汗で張り付いて気持ちが悪い。
だから夏って厭だ、と独語した。
照り付ける太陽と朦朧とした暑さに汗腺が緩み滲みでて躰中を覆う。
タオルなどは疾うに汗に濡れて役に立たない。
今日の最高気温は四十一度だと聞いた。全く気の狂いそうな暑さだった。
能く死者の出ないものだ。
道端の樹木が僅かに影を作り一瞬涼しく感じたが、それもすぐに錯覚だと知る。暑さは上から降り注いでいるわけではないのだ。此の世界を包んでいるのだから。其処に立っている限り此の暑さから逃げ出せることはないのだ。木の下は蝉の声が忙しなかった。
それを聞く内に、夏が好きだった奴がいたことを思い出した。
額を拭いながら、今頃何処にいるのかと思った。
あいつは汗を掻かない体質だった。
否、汗を掻かないのではなく、どうしたら汗を掻かずに済むのかを知っていたのだ。夏になると、涼しい箇所を見つけては其処で居住していた。
それも野性的に直感で。呆れるほどだ。
暑さを誘う、命を削って忙しない蝉に勝手な悪口あっこうを投げつけ、木陰を出た。
直射日光が照り付ける。
逃げ水が眼前にゆらゆらと這い蹲る。
茹るようだった。
今日何度目か数えることを放棄した溜息を再びついた。
今頃は南米だろうか。
三月にアラスカから手紙を貰った。
何故こんな時期にアラスカなどと言う土地に居るのか、巫山戯て居るのか、と腹立たしくなって、届いた手紙を読んだものである。
手紙の内容も大変素晴らしく巫山戯ていた。
…もっとも、巫山戯て居ると受け取ったのは此方だけで、彼方は大真面目だったのだろう。
文面は、
『御無沙汰している。私は元気だ。世界が寒い。楽しいぞ。南下する。草々』。
差出人の名前さえ記されていなかった。
汚らしい文字。手習いを始めたばかりの小学生のようだ。何時まで経っても子供じみた文字を書くと冷ややかな笑いが漏れたほどだ。
思い出すだけで、呆れ感情が蘇ってきた。
そしてまた汗が首筋を伝った。

「ああ、本当に髪切ろうかな」

貴妃たかきは髪を掻き上げた。
生来髪は茶色く、肩甲骨を下回るまでに伸びていた。
好い加減切る頃合だろう。いつ帰るとも知れぬ人間のことなど忘れてしまっても好いのかもしれない。そうだ、そうなのだ。
あいつはいつだって何か自分が無茶をしたい時、貴妃に怒られないために好い加減なことを口走るのだ。呆れた人物だった。
暑さの中で苛立ちは尚体感温度は増した。
何を言っても物事と言うものは結局自分の中でしか解決しないことを貴妃は知っていた。
だから只管家路を急ぎ、早くシャワーを浴びたかった。

 鉄柵の大きな門を潜る。錆付いた門はどうにか人一人通れる程にしか開かなくなって久しい。門を入ると其処には庭が広がっている。庭掃除が大変であるから一度として草むしりをしていない。立ち上る草いきれは余り好ましく感じなかったが、蟲の鳴き声が素敵で中々風情がある。あれから貴妃は何処までも前向きだ。
庭を抜けると其処に在るのは崩れ掛けた屋敷だった。
二階建ての洋館である。外見上の構造は比較することも憚られるが長崎にあるグラバー邸と似ている。新しい物好きであった貴妃の曽祖父が明治期に建てた物だった。それから修理を入れたのは僅か二階と聞く。
昭和に入ってからは終戦直後が最後だ。
そりゃ崩れもする筈さ、と呆れたものだった。
全く貴妃の周りには呆れるものが勢揃いだった。
建て付けの悪い玄関の扉を開けた。映画の効果音のように奇怪な、幽霊屋敷のような音を響かせる。

幽霊屋敷。

話を聞く分には楽しい設定だが自分の家であると思うと泣けるほど虚しくなってしまう。
入れば其処は広い、二階まで吹き抜けとなった玄関ホールである。
高い天井には壊れて動かない三枚羽のファンが二つ見える。階段を上ると、天井に蜘蛛の巣が張り巡らされて、苦笑を禁じ得なかった。
二階に上がってすぐの扉が貴妃の部屋だった。
板張りの床。立て付けの悪く完全に締め切ることのできない窓。其処から入る風に翻る色褪せた黄色いカーテン。軋む狭い寝台に、変な黄色い箪笥。その横にある天井まで届く本棚。褪せた緑色をした勉強机が此の部屋にある家具だ。
はっきりいって年代物だ。此の室内で一つとして貴妃の為に購入されたものはない。凡て貰い受けたものだった。兎に角荷物を置いて着替えを持って再び階段を下りる。
風呂場は一階にあるのだ。
西洋気触れだったらしい曽祖父は頑固なほどに一切を洋風に拘った。シャワーの金具は真鍮で嘗て綺麗な金色であったらしいが今や剥げ落ちて地色が顔を覗かせている。それが味があってよいと奴は言っていたが、貴妃には貧乏臭い風にしか取れなかった。タイルは白で外国映画に出てくるような足の有る浴槽も白、一見その組み合わせは爽快だが、爽快に感じさせるには貴妃の多分な努力が払われているのだ。
白さは黴の繁殖が能く目立つ。黄ばむ。
だが今は一昨日根気を入れて磨いたばかりだったので清潔で美しかった。
シャワーを浴びて綿の襯衣とジーンズに着替えた。
ジーンズは膝まで捲り上げる。臨戦態勢だ。
こんな広い屋敷を一人で賄うには常に戦える状態でなくてはならないのだ。
濡れた髪を適当にタオルで縛り上げ、モップを握った。
水漏れをする金物のバケツになみなみと注ぎ、ドレッドヘアと思しきモップを水に浸けて床を磨く。放っておけば直ぐに埃が溜まる。それは多分に貴妃の気分を害すので、小まめに床磨きするのだった。
二階まで磨き終わると、日はとっぷりと暮れていた。
一階の居間にある緑色をした此の家では比較的新しい長椅子に胡坐を掻いた。長椅子と卓子の向こうにある年代物のレコードを掛ける気にも成らず其の侭長椅子の背凭れに寄り掛かり庭の虫の音を聞いていた。
暫く其の侭で眼を瞑っていたが、状態が余りにも情けなかったので、夕食の準備に立った。
台所に行き冷蔵庫の中を開ける。
昨日茹でた素麺が冷蔵庫の中で固く成っている。貴妃は掃除と料理を日替わりで行う。双方をこなすことは大変だし中途半端も厭だったからだ。
今日は掃除の日であった。
貴妃は大抵こんな風に一日を過ごしていた。
好い加減飽きたものだが、せずには居られない自分の性分に地団駄踏みたかった。

翌朝、郵便受けに赴くと、滅多に無い郵便物があった。
絵葉書だった。
豊穣な自然に古代の遺跡が溶け込んで瑞瑞しいとても綺麗な写真だった。
そしてそれを引っ繰り返すと、『帰る』も文字が、あの下手としか言いようの無いもしくは芸術的とも言える文字で書かれていたのだ。
貴妃は驚いた。
何よりも先ず驚いた。
そしてどうしようと考えたのだ。
漸く奴が帰ってくると言うのに。
長いこと待ち侘びた父親が帰ってくると言うのに。
そんなとき、玄関のチャイムが鳴った。
否チャイムなどと言う代物では無い。割れ鐘のような音を響かせる時代物だった。
時計の針は本日二回目の十一時を示していた。コンナ時分に遣ってくるのは、幽霊かもしくは一人しか心当たりは無いのだ。
だから貴妃は玄関まで出て行かない。
訪う人物は、此の居間まで遠慮も無く、上がり込むことを知っているからだ。

「よお、」

案の定、客は遣ってきた。

「ようこそ」

長椅子から頸だけを覗かせて歓待した。
客人は近所に棲む八重ちゃんと言う娘だった。
貴妃の友人である。互いに物心が着く頃からの付き合いである。
八重ちゃんは美人だ。澄んだ眸は毀れそうに大きく整った鼻梁、大きな口、髪は短い。ショートヘアよりももっと短い。
涼しそうだと貴妃は羨ましくなる。
スタイルも女性として申し分無い彼女は、パジャマ姿だった。
八重ちゃん宅から此処までの道程を年頃の娘さんがパジャマ姿で来たのだ。ちょっと呆れた。
断りなしに八重ちゃんは貴妃の隣へどっかりと座った。

「親父さんから手紙が来ただろう」

「ああ、うん…」

「どうせ貴妃のことだから困ってんだろうなって思って来てやったんだぜ」

彼女の麗しい唇から乱暴な言葉が吐いて出た。
八重ちゃんは一寸変わった子だった。
昔から。
いつだって貴妃が困ったな、と思うと何も報せていないのに、突然現れては傍にいるのだ。それは蟲の知らせとでも言うのだろうか。
……能く判らない。
いつも早寝の八重ちゃんは寝ようとしていたのだろう。だから、今の八重ちゃんはパジャマ姿なのだ。

「親父さんから手紙が来たのが見えたんだ。どうせ奴のことだ。文面は『帰る』程度だったんだろう」

貴妃は言い返す要素の無い言葉にゆっくりと肯いた。此の幼友達は貴妃のどうしようもない親父に容赦が無い。いくら救いようが無くても仮にも友達のちとやだと言うのに、『奴』呼ばわりだ。

「いなくなったの、いつだっけ」

「一昨年の夏」

もう二年経つことに気が付いた。
早いものだなぁと呟くと八重ちゃんが呆れた顔で貴妃を見る。その呆れた顔が美人にあるまじきものだったので、貴妃は笑い出してしまった。

「手紙は何処だよ」

貴妃は卓子の上の絵葉書を指し示した。
八重ちゃんは歓声を上げた。

「人間何か取り得が有るもんだな。あのどうしようもない親父が、能く撮れるもんだ」

そう、この写真は八重ちゃんが言う処の『どうしようもない親父』が撮ったものなのだ。彼は一応それで飯を食うプロフェッショナルだったのだ。

「うん」

写真を凝視して八重ちゃんは頷いた。

「綺麗だ…。南米…かな?」

色取り取りの豊穣な緑。森閑としていてそれでいて濃密な臨場感が伝わる。
それは、南米の遺跡の神の姿だった。
神々しいとか、そんな言葉ではなく、自然の一部だった。

「うひゃあ、本当にこれだけか。呆れた奴だな」

八重ちゃんは父親の文面を見て驚きの声を上げる。

「下っっ手な文字ィィ」

大きな口を更に大きく開いて大笑いをする。
その光景は彼氏に見せないほうがよいだろう。八重ちゃんは彼氏の前では完全に己れを作っていた。
綺麗な八重ちゃん。
一寸彼女が羨ましかった。

 貴妃とその父親、一部に絶大な支持を受ける写真家のarashiは戸籍上は正しく父親であることを保障されている。
だがそれが真実か否か、真相は『藪の中』である。
 貴妃の母親は奔放な女性だった。
彼女は美しくで、しかもそれを自覚して存分に有効利用したのだ。多くの男性と親しかった。そして最終的に貴妃の父親と結婚したのだが、その結婚の直前まで大勢の男性を重ねていたのだ。恐らく母親でさえ、貴妃の父親の特定は出来なかったと思われる。そして産み落として一年もせず呆気なく逝ってしまった。
貴妃は母にも父にも似ていなかった。強いて言えば写真でしか見たことの無い母方の祖母に似ている。母は既に二親が無く、ずっと独りだったのだ。
貴妃と言う名は母親が着けたという。字面を見れば瞭然だが、貴妃と言う字は古代中国の後宮の妃の冠位名である。
母親は「楊貴妃こと楊玉環のように美しくかつ我が儘になりなさい」、と此の名をつけたらしい。申し訳ないが貴妃は楊貴妃のようには成れなかった。

「親父さんなんで行っちゃったのかな」

そうあの親父は貴妃が受験生だと言うのにその追い込みの夏に突然姿を晦ましたのだ。簡単な書置きと当面の生活費が振り込まれた通帳を置いて。
当初憤慨して周囲に当り散らしたが、すぐに熱は退いた。
……恐らく、父親は気付いていたのだ。
貴妃の気持ちに。
貴妃の初めての恋は、他ならぬ父親だったからだ。
貴妃は幼い時から口さがない大人たちの言葉を聞いてきた。
「貴妃ちゃんの父親は違う人かも知れない」
幼いころには何のことだか判らなく、父親からそんな話を聞いたこと無かったので、歯牙にも掛けなかった。だが、初めて夢精を経験した朝、夢の中に居た人物が父親であることに途方に暮れてしまったのだ。
本当に突然だった。
意識してしまった。
自分の置かれた複雑な状況と、思春期と言う一種病的な世界にいたからなのだ、と今なら思う。だがその時は八重ちゃんにも言えず、一人悩んでいたのだった。
今の時代、DNA検査とか言う能く判らない代物があるから、貴妃と父親に血縁関係があるかないかはすぐに解かるだろう。
だが、もし借りに血縁関係が無いとの判定が出てしまったら母親が独りであったように、貴妃も一人になってしまう。
怖くて、恐ろしくて、仕方なかった。

恐らく……あの父親は、あの『どうしようもない父親』は知っていたのだ。

そして貴妃から離れることを決めたのだろう。
突然居なくなる前の晩、此の居間で親子してビデオ鑑賞をしていると、貴妃の短い髪を掴まえて掻き雑ぜた。貴妃が文句を口にすると、父親は猫のように笑って『伸ばしたら綺麗だろう』と言った。
唯一母に似た生来茶色い髪。
学校ではあれこれ言われるが、父親は此の髪を気に入っているようだった。
此の家で一人になった日から、髪を伸ばし始めた。

「此の間本屋で奴の写真集を見かけたぞ。なんか、寒そうな写真だったな」眠そうな微睡みに塞ぎ掛かった眼をした八重ちゃんの声が突然耳に入って吃驚した。

寒そうな写真。
それはアラスカの写真だろう。
新しく刊行されたものだ。
自分の家には入れなくとも出版社とは頻繁に連絡を取り合っているようだ。

「どうしようもない奴だけど……良い写真家だよな」

それだけ言って八重ちゃんは心地よい寝息を発てはじめた。
庭では蟲の音の大合唱の状態だが、五月蝿くは無い。
子守唄のようだった。

『良い写真家』。

八重ちゃんの言葉が一寸嬉しかった。
あの父親はいつもと変わらない状態でふらりと帰ってくるだろう。
そうしたら貴妃もいつものように始められるかもしれない。
普通の親子のような。普通な生活が。
先刻までの困惑した感情が嘘のように霽れていた。
何だか父親の帰宅が待ち遠しくなっていた。
未だ胸は高鳴るけれど、月日は確実に貴妃を変えている。
貴妃はもう一度、葉書の写真を見た。

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あおきくんだよ

ときどき、関口さんが喰いたくなる。こう頭から足から、手から。まあどこでも先端からでも真中からでもいい。ばっりばりと。ときどき噛み付くと痛そうにもするけど、気持ち良さそうでもあるからきっと喰っても良いに違いない。ああ、喰べたい。喰って咀嚼して呑み下して吸収したい。彼の血肉も此の身の舌と内臓を使っていとおしみたい。

嗟、こういうのなんていうんだっただろうか。今度京極堂さんに訊いてみよう

cannibalism

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書きかけAU

ドッペルゲンガー(その昔益関がメインだった頃、お題ページがあってその一つ)

04 ドッペルゲンガー 市

右手で作った拳のその粗末な扉を力任せに叩いていた。暫く扉の前で佇んだがそれでも内部からの反応は無い。通りを行く老婆が怪訝な顔で此方を見たので曖昧に笑いまた扉を叩いた。
そして腕を上げることが面倒になり腕を組み、靴底で蹴ってみたが内部からの反応はなし。
溜まらず扉を押すと甚も簡単に開いた。
「無用心だなぁ」
十二畳ほどの長細い部屋である。
真正面には窓があって、卓子とそれを挟んで二客の椅子が背を窓下の壁に向け置かれている。薄汚れた漆喰壁だ。卓子上にはアルコホルが其処に辛うじて残る程の洋燈と幾枚もの原稿用紙があった。
書き損じた紙は左に束ねられ、文字の埋まったものは右側に文鎮を置かれていた。枚数をみれば五枚程度で、昨夜の暑さにどうやら筆が進まなかったことを報せていた。
窓外では運河の水が光を反射させている。
眩しい。
麻の白い中折れ帽子を卓子に置き、内輪を手に取り仰ぎ出すと、部屋の片隅の小部屋を見た。
小部屋と言っても好いはずだ。
壁に押し付けられ四方を柱と帳が飾っている。尤も此の暑さに帳などは引かれていず、堂々とその部屋の主が寝乱れた姿を眺めやることができる。
その小部屋は此の地の伝統的な床の様式で、西洋風に言うならば『ベッド』である。
牀とも記し、つまりは寝台だ。
「寝穢い」
丸くなって眠る様は宛ら栗鼠が何かのようなのだが、寝着の乱れようは酷かった。下履きと肩にその長着そ引っ掛かっているだけのようにも見える。
「関口さん、いい加減に起きて下さいよ」
前髪を揺らして寝台の上で丸まる関口を覗き込むと鼻を摘んだ。
冬であれば此処に白い綿入りの敷布と枕が贅を競うのだろうが、現在は敷布を敷いたばかりである。
瞼が鈍々と押し開けられた。
暑さに熟み疲れた眼が其処にあった。
「ますだくん」
鼻声で闖入者の名を呼んだ。
「陽も疾うに上っていますよ。起きて下さいよ」
眼を手の甲で擦りつつ、関口は緩慢に上肢を起こした。
益田が手を離すと関口は胡坐を掻いて肩を小さく回した。
「なんで君、此処にいるんだ」
「昨日約束したでしょう」
「慥かにしたけど…」
「鍵が開いていたんですよ。無用心だなぁ、全く。早く顔を洗って着替えて下さい」
「んー」
「寝惚けてますね」
呆れた声と共に腕が伸びてきて関口の頬を抓った。
「痛いよ、鳥渡っ。益田くん」
「髭も当たったほうが好いな。僕は其処の茶舘に居ますから、早くして下さいね」
卓子にある帽子に手を伸ばし、頭に載せると益田は眼前で手を振り颯々と出て行く。
それを眺めやり、再び卓子を見た。
五枚しか進まなかった原稿。これではいつまで経っても日本に送れない。
関口は溜息を吐いた。

 茶舘は通りの角に有り、運河へ張り出した広い露台がある。露台の脇には大きな柳が生けられその袂は一階二階共に舗内で一番人気の席だった。その席にいる益田を見つけ近付くと、茶海から背の高い聞香杯に注ぐ処だった。黒泥の美しい茶器をそっと益田は茶盤へ置いた。
「君は、酷く面倒な方法で能く飲むね」
「どうぞ」
そう云って益田は着席したばかりの関口の鼻へ開けた聞香杯を押し付けた。
「如何です?」
「…甘い感じ…かな?」
関口は首を捻った。味覚音痴だとは日本に居る時に散々友人の古書肆に揶揄されたのだ。舗内の卓子は黒檀の框には葉を着けた木々が装飾されていて、それを関口は指の腹で撫上げ益田の相向かいに着席した。
「否僕も能く解らないんですけど」
けけ、と益田は笑った。
「折角だから習得しようと思いましてね」
「熱心だね」
「じゃないとやってられませんから。うちの探偵未だ見つからないし」
益田の物言いに関口は顔を顰めた。
「榎木津、居なくなって五日だろう?」
「四日ですよ」
益田は丁寧に訂正した。
「然るべき所に連絡を入れるべきじゃないかなぁ?」
正方形の形をした卓子に両肘着き顎を乗せて関口は云った。
「然るべき処って何処です?」
「あー…領事館とか?」
質問に質問で返し剰え思案顔を傾いだ。
「話が大きくなりますよ。第一、あの人ですから」
「そうなんだよなぁ。彼奴なんだよね」
溜息を吐いて小さな碗に慎ましやかに入った茶を二人は同時に呷った。ことが大きくなって後大抵莫迦を見るのは、当人を心配して騒いだ周囲なのだ。あれ程心配のし甲斐が無い人間は居ない。
「関口さん、」
益田が注視していることは解ったが関口は運河に眼を向けたまま一顧だにしない。そもそも人と目線を合わせることは苦手なのだ。
「ん?」
「いい加減に髭を剃ったでしょう?」
人を莫迦にしたような口調は雇い主譲りか、本人の性質か。
「残っているかい?」
「少し」
益田は片目を軽く眇め人差し指と親指で空気を掴んで見せた。少しと言う仕草である。
「それは兎も角、何か食べないかい?」
顎を撫でながら訊いた。
「お腹空いているんですか」
「昨日の昼から食べてないんだよ」
益田は関口の腹の辺りを見るが、薄くなった腹部は衣服に隠されている。
「だって彼処公禺でしょうに」
公禺とは賄い付きの下宿を言う。
「ああ、うん。まぁ…なんと云うか」
「何ですか。その曖昧な返事は」
察したのか意地の悪い笑みを浮かべた。
「まあ…有態に言えば賄いが払えなくてね」
「矢っ張り。有態も何も他に云い様が無いですよね。関口さん、颯々と原稿完成させて原稿料貰えば好いじゃないですか。綺譚舎さんは大手出版社なんですから紙魚っ垂れたこと云わないでしょうし」
「使用人付きの借家暮らしが能く云うよ。君は労を知らな過ぎだ。それが出来てりゃこんなに辛くないよ」
閑を持余していた薔薇十字探偵社は関口に着いて此の地まで出張したのだった。そして東京に居る時に知り合ったらしい仏蘭西人の知人から家を借りていたのだった。勿論探偵社の社員たる益田も探偵の友人である関口もその仏蘭西人など知らないのだが。
プラタナスの並木の美しい仏蘭西租界に家はある。
「まあその労を好んで仕事にしたのは関口さんですしね。此処行きを承諾したのも関口さんですから。あの探偵に平身低頭、頭下げれば喜んで迎え入れますよ」
「君と彼奴と僕?」
で棲むと云うのか。
「ええ。はしゃぎ回る光景が眼に浮かびます」
「─────御免蒙るよ」
「給仕付きなのに?」
「君、今其処に一人なんだろ?榎木津が戻っていないなら。もしかして一人そんな待遇にいるのかい?」
「疑問形で畳み掛けないで下さいよ。否、まあ僕一人なんで金払えないしやっぱり恐れ多いので、実際の給仕にはお引取り下さっていますがね」
益田も赤貧は身に染み付いているらしい。
「じゃあどういう意味だい?」
益田は口を弓張り形に作って自分の鼻を右手の人差し指で示した。
若い女給が鳳梨酥を二人の卓子へ置いた。パイナップルの饅頭である。益田が女給へ些少の礼を渡す。
「関口さんは─────結構彼方のことに詳しいんですよね、」
益田の声調が少し改まって関口を呼んだ。
「彼方?」
鳳梨酥を頬張り口を動かしながら復唱した。けれども何を言っているのか解る発音ではない。
「ドッペルゲンガって知ってますか?」
咀嚼しての見下すと関口は親指で口を拭った。
「『あっち』ってそれのことか」
「ええ、まあ」
「…僕も一般的なことしか知らないけれど…。此の言葉自体は独逸語でドッペルって言うのは英語のダブルだな。学生の時に落第をドッペるとか云ったし」
「はあ、学生の俗語ってやつですね」
「うん。ドッペルゲンガって云うのは『二重に出歩く者』と云う意味らしい。日本では二重身とか、古くは離魂病とか云った」
「二重ですか」
「そう。鏡も無いのに、自分自身を其処に見ることを云うんだ。否、第三者が見ることもあるんだけどね。そのもう一人の自分に会ってしまうと一年以内に死んでしまう─────と言う民間伝承もある」
「そんな怖い話なんですか」
「らしいよ。有名処ではゲーテとか芥川とかが見ているらしい」
益田は腕を組み少しだけ思案めいて見せた。長い前髪が風に戦いだ。関口は益田のそうした光景を見ることが好きだった。
「益田くん?」
何故思案気にするのか訝しんで声を低めた。
「否、僕も能く解らないんですけどね。当の榎木津さんなんですが、今の処掴めている足取りの最後の目撃者が云うには、榎木津さんは自分を追っていった、と─────」
関口と益田は顔を強張らせたまま、互いを凝視しあった。

窓の下枠を飾る美しい格子の下部を運河が流れている。蒼穹には遥か彼方に白い雲が薄くある許りでその中天には日が燦爛と坐す。暗い色をした水面を舗中の天井まで揺揺と陽光は反射させていた。
運河を眺め遣る関口の顔も矢張り照り輝いている。
益田はその関口を見詰めた。
運河を行く荷を運ぶ舟。中には遊興の舟もあるが、何れも笠を被った人々が櫂を水中に尽き立てながら緩慢に進んで擦れ違って行く。運河の上流側、舗の露台馬手には上弦の弧を描いた橋が掛かって対岸とを繋いでいる。その石造りの橋脚を舟が潜って往った。
「…矢っ張り…領事館へ往った方が好いですかね?」
何処か不安そうな口調で益田が聞き、関口は煙草を取り出した。日本から持ってきたものである。
益田が迷うのはその渦中の人間が他ならぬ榎木津であるからだ。もしこれが関口であったならば兎にも角にも息咳き入って領事館に駆け込んでいた筈である。
「まあ、うんそうだね」
煙草を卓子に置いたまま関口は肘を着いた。
「その前に少し整理しよう」
「整理ってそんな悠長な」
「もう充分に悠長だよ。それに榎さんは簡単にはやられないよ」
しぶといからね、そう云って関口は少し笑った。

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贋作阡夜壱夜物騙


「フカツさん!」
絨毯も布かれない大理石の上を跫を編み黄金細工の鼻緒が着いた履物が音を発てて迫ってきていた。
振り向けば、其処にいるのは勿論サワキタであった。早々と軍装も解いた姿に思わずフカツの眉間が寄った。
「良かった未だ
外廷ビルンにいて、」
「……大勝利おめでとう…ピョン」
その言葉に徐にサワキタの腕が伸びる。
その両を見つつ、フカツは少し息を落とした。
互いの頸を擦り合わせて抱擁し、サワキタは静かに頸筋に口付けを落とした。
そもそもサンノーに男同士の
お触りスキンシップ過多の挨拶ではない。他者とは握手が基本だ。精精父系の青年同士は唇に軽く接吻や、年配や別の父系は鼻を撫でる。老人に対し、若人は鼻に接吻をするくらいである。
他人と見境無くそんな親しい挨拶は存在しない。
勿論例外はある。
旅から無事に戻ってきた者を迎える時には、他人であろうとも頸部と頸部とを合わせて抱擁しあって首にキスをしてもよいことになっていた。
然し基本的に肌と肌の触れ合いの習慣が無い国に、近親者ならば兎も角、人によっては不快に近い感情を抱く。
諾々とそれを受け止めている。此の王朝の
宰相閣下ワジールパシャが。
殆ど此の国で比類無い権勢を誇る権力者が腕を垂れて為されるが儘の様は中々奇妙なものがあった。
一分の隙も無い物腰。
それは到底文官の物ではないだろう。
「サーワーキーター」恨めしいと云った声が聞こえ、フカツは目線を上げた。サワキタの背後に現れたのは、
総督アミールであった。
フカツに張り付いた儘、サワキタは恐る恐る頸を背後へ廻らせた。
丸いゴリラのような顔。
アミールパシャ。カワタマサシである。
笑んだ額に筋が浮いている。
「スルタンへの報告無しにワジールに走る奴が居るか!」
「か…カワっさん…」
「好い加減離れるピョン」
フカツの腕が動いて、サワキタの額を押した。
「此れが次代だと思うと…俺は呆れるピョン」
「そう!そうだ!その時は是非俺の
後宮ハレムに来て下さいね。是非是非絶対!」
サワキタは両手で、戦場から帰ってきたであろうに紅玉の着いた指輪をする手で、フカツの磐々とした右手を包んだ。
「莫迦野郎、男はハレムに入れねえって何度言えば解んだあ!」
カワタはその場でサワキタに四文字固めを掛け、ぐったりとさせると、その頸根を摘んで、毛足の長い幾何学模様をした絨毯の上を引きづって往く。
「カワタ、」
「なんだ?」
「大勝、おめでとうピョン」
「おう、」
その顔を緩ませた。



アラビアン大好き。

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私の頭の悪さは計り知れない。

榎木津財団の若き総帥。
肩苦しさを嫌い既に事業を起こしていた彼の長兄は、他人のレールの一切を放棄して財団の如何なる役職にも関わらなかった。(それでも押し付けられた大株主の一人でも有る)
それに代わり財団の未曾有の危機を救ったのは決して収まることはないと目されていた次嫡の榎木津礼二郎だった。
彼の履歴を訊ねれば、嘗ては法学を学んだ人物であり、また前職が探偵とあっては到底商人としては立ち行かないと思われていたのが、どうしてどうして、榎木津は見事とばかりは行かなかったがあの巨大な財団を御するまでになっていた。
財団の本拠地はざぞかし長身のビルヂングだと思ったのだが、暗に反し、住所通りに訪れたのは緑の豊かな白亜の宮殿だった。高くない代わりに只管に広大だった。柵がぐるりと巡って居るのだが果たしてそれが何処まで続くのか、俄かには想像もつかない。
約束していた時間には十分の遅刻だ。
企業家ならばきっとその十分も命取りの筈だ。…関口は少しだけ期待した。この十分で彼が自分を見限ることを。案内されたその先の部屋から退席していることを。彼が真実企業家ならば、そうするだろう。
 関口は乾いた脣を舐めた。
緊張しているのだ。少し笑った。榎木津に会うのに緊張するなんて。あれほど、馴染んだ仲だと云うのに。それほど二人の関係が断たれていたといってもいいだろう。どうにも場違いなことは否めない。どうみても例えば此処は皇帝の夏の離宮だのに人は忙しない顔で行き来している。

以上榎関書きかけです。続きはまたいつか!その前にフレンチを上げたい。
知っていたけど、お兄ちゃんへの多大な妄想がある。
ムーランルージュの見すぎだと思っているんだけど、your songの「you can tell everybody this is your song」を榎関でやりたいんだ。(ゆあんの歌声は腰が砕ける)
榎さんはもう関口には手の届かない人になっちゃうんだけど、変わらず関口を想っていてくれて、それどころか、「みんなに言うといい これは君の歌だと」とかやってくれるといい。
そう考えるとエルトンジョンは凄いね。
もう一つ、榎木津は関口を嫉妬させるためならなんでもやる。と言う話も書きたい。
此の場合関口はモラルのハードルが非常に低いことになる。なので榎木津も同レベルにまで下げないと攻撃できない。きっとその為ならすきでもない嫌悪さえ抱く人とも…ってこれは榎木津じゃないな。うん。どうせなら上のとくっつけるか。

妄想だけは今も猶逞しく!去年を払拭するように。

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めも

瀑布─────

白い飛沫を上げて、滔滔と弾け落ちるその水の塊を見上げる深津の横顔を沢北は熟視していた。どういった経緯で此処に居るのか沢北はその横顔を見ながらただ只管記憶をなぞっていた。
まるで自らを慰さめるが如く記憶を幾たびも幾たびもなぞる。
そう────此処へ来たのは、他ならぬ深津の誘いだったのだ。

北へ向かう夏の電車は冷房なども無く、先ず窓を開けることから始まった。
冷房完備は今夏中だとの通知が駅の掲示板にあったが、今は未だ行われていないようだ。暑い、と互いの口から言葉が漏れた。

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lostparadise

今日は…よりおきにの人が連続で負けた日だったよ…。
悲しい。
いいなぁ上海(吐き出すように)

そういえば先週着物の先生に柘榴を二つ貰いました。庭で生ったそうで。甘くて美味しかったです。
関口くんに喰わせたい。青木くんが持って行けば良いよ。
………ああ、そういえばエデンの園で蛇が唆す果実は柘榴だったか?

「甘い」
「それは良かった」
青木と関口は二人褥の上で胡坐を掻いて向かい合っていた。
数多の種を口から吐き出して行く様を青木は煙草を加えながら熟視めていた。既に二人下着と襯衣を羽織っている。
「食べ難いれすよね、柘榴って」
「それをわざわざ食べたのだから、余程蛇は蠱惑に唆したんだろうね」
然し君も、と関口は顔を上げた。
「出会茶屋にこんなものを持ってくるなんてね」
その顔は本当に珍しく愉しそうだった。
「関口さんに食べさせたいと思ったんですよ」
「…青木くん…」
潮が曳くように関口の顔から笑みが消えて行く。
「貴方に食べさせようと思ったら、此処しかないでしょう」
関口はまた俯いて、柘榴を食み始めた。
外に持って行き様の無い関係だ。会えるのは此処以外に無い。こんな粗末で窓もなく、不衛生な部屋が二人の云わば、楽園なのだ。
「君も食べろよ」
関口が柘榴の実を抓んで青木の前に差し出した。
青木は薄く脣を開くと、関口のその指を吸った。
柘榴と共にその指の腹を噛みしだいた。
青木が歯を少し緩めると関口はその口内から唾液にしとどと濡れた指を引き出した。
そして青木は自分の掌に種を吐き棄てて、「甘い」と呟いた。

ロストパラダイスは能く扱われる素材だけど、矢張り書くほうにしてみると魅力的なんだよね。

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